繊細な表現・ことばに触れたいあなたにお勧めの本5選!!

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世の中には魅力的な本がいっぱいありますが、今回は、文章や言葉選びの美しさ・繊細さにフォーカスし、お勧めの本を5冊紹介します!

これらの本を読めば、あなたの日常がより鮮やかになるかもしれません!

千早茜 『透明な夜の香り』(集英社)

あらすじ

元書店員の若宮一香は、小川朔という人並外れた嗅覚をもつ調香師の元で、家事手伝いのアルバイトを始める。朔は、幼馴染で探偵の新城と、客の望むどのような「香り」でも作ることができる、変わった調香師だった。記憶、欲望と密接に関わる「香り」を通して、人間の言語化が難しい、だれもが抱いたことのある感情や、悩みを精巧に描いた一冊。

おすすめポイント

「読書」は、「文字」という視覚情報を脳内で再現して楽しむため、「味」「香り」「感触」「音」など、五感の殆どを直接的には使用しません。しかし、千早さんの作品はどれも、五感を使って楽しむ読書体験と言っても過言ではないほど、香りや温度感、味、感触が伝わってきます。読了後は自分の五感や感性が、より鋭くなったような感覚に陥るところも魅力の一つです。この物語は、生きていく中で、敏感になりすぎるがあまり疲弊しきった人や、目まぐるしい現代社会につかれた人に特におすすめしたい1冊です。繊細で孤独な朔さんや一香さんに共感できる部分があるのではないかと思います。また、現実離れした幻想的な世界観に思いを馳せ、心休まる時間にもなるかもしれません。

この本が好きだった人にお勧めの本

  • 千早茜『クローゼット』(新潮社) 幼少期の事件がきっかけで男性恐怖症になった、洋服補修士の纏子と、男性だけれど女性服に憧れがあり、傷ついた過去がある芳の物語です。服飾美術館の美しく、繊細な収蔵品の表現に思わずため息が出てしまいます。
  • ジャン=クロード・エレナ著 芳野まい訳『香水 -香りの秘密と調香師の技』(白水社) 香水や調香師のことについてもっと知りたくなった人にお勧めです。
  • 千早茜『赤い月の香り』(集英社) 『透明な夜の香り』の続編です。

カツセマサヒコ『ブルーマリッジ』(新潮社)

あらすじ

若手ながらも人事部に配属され、会社のハラスメントへの改革に奮闘する会社員の雨宮守は、長年交際を続けている彼女にプロポーズをした。自身の人生の大きな節目を迎えるタイミングで、人事部にパワハラの相談が寄せられる。加害者として訴えられたのは、長年連れ添った妻に突如別れを告げられた、土方剛だった。「結婚」「離婚」という、正反対の転換期が訪れた二人は、「ハラスメント」を通して、各々の「無意識の加害」「許し」について考える。

おすすめポイント

私たちは、どれくらい自分の犯した罪を知っていて、どれくらい覚えているのでしょうか。加害者は、これからをよりよく生きようとしていれば許されるのでしょうか。また、被害者は、加害者の謝罪を受け入れ、反省を認め、許さなくてはいけないのでしょうか。自分自身の在り方や、過去について考えるきっかけになる小説です。本には一般的には素材として使用されない、半透明のトレーシングペーパーがカバーとしてかかっており、著者のカツセマサヒコさんの結婚生活に対する思いが込められているところも素敵なポイントです。

カバーに、半透明のトレペを使用しました。傷や折れ目が目立つ、書店員泣かせの本だと言われました。すみません。結婚という一見煌びやかなヴェールを外したとき、そこには美しさだけじゃない生活と現実がある、と伝えたくてこの装丁にこだわりました。(中略)

この本のカバーは、傷も折り目もつきやすいです。どれだけ大切に扱おうとも、読み進めていくうちに、やがて傷や汚れがつきます。それは、生活そのものに近いと思ってます。生活も、大切に思っていた誰かを傷つけてしまったり、家を汚したりします。目を伏せたくなっても、消えはしません。このカバーも、まるで生活や人生そのもののように、皺がつくと思います。

‐カツセマサヒコ公式Xより‐

カツセさんはInstagram、Xのほかにラジオも配信されています。ラジオでは制作裏話や、カツセさんの考えが垣間見えます。併せて読むと、より考えや解釈が深まるかもしれません。

この本が好きだった人にお勧めの本

  • 千早茜『赤い月の香り』(集英社) 「怒り」という感情をテーマにした小説。対人関係を構築する上での「加害」について考えさせられる本。『透明な夜の香り』の続編ですが、こちらから読んでも楽しめます!

伊藤紺『肌に流れる透明な気持ち』(短歌研究社)

内容

元々は、私家版(個人が非営利目的で自費出版する本)として出版された歌集だったが、増刷される度に売り切れる程の現代短歌の話題書。装丁や、紙面のデザインにもこだわりを感じ、文字だけでなく、視覚としても短歌を楽しむことができる1冊。私たちの、日常の何気ない感情や出来事、恋する気持ちを31字で美しく、儚く表現している。

くちぐせをうつしあったらばらの花いつまでもいつまでも残るよ

(P.15)

歌いながらマニキュア塗るとはみ出してしまう。

ホントにしたいこと、かあ

(P.29)

持っていることばの意味がちがうから一生うそをつかなきゃいけない

(P.52)

おすすめポイント

短歌は、五七五七七の計31字から構成されますが、その節をどこで改行するのか、製本する場合はフォントやページに対しての文字の配置など、音や言葉としての意味合いのみならず、視覚的要素からも楽しめるものです。この本は、元々私家出版であったこともあり、著者のデザインに対してのこだわりがより感じられる作品です。私たちが当たり前に通り過ぎる、日常の些細な出来事や、恋愛感情を、31字という制限の中で留めることができるって、とても素敵なことだと思いませんか?短歌の魅力は、この限られた表現の中から、自分自身の物語(=解釈)を創り出せるところにあると思っています。

この本が好きだった人にお勧めの本

  • 伊藤紺『気がする朝』(ナナロク社) 伊藤紺さんの最新作です。
  • 宮田愛萌『春、出逢い』(講談社) 短歌甲子園出場に向けて奮闘する文芸部の青春小説。短歌を始めたくなった小説好きの方にお勧めです。
  • 『現代短歌パスポート』(書肆侃侃房) 短歌入門におすすめな歌集。今注目されている歌人10人の歌が収録されており、2024年8月現在、3巻目まで刊行されています。

宮田愛萌『あやふやで、不確かな』(幻冬舎)

あらすじ

成輝は大学4年生で就活中の彼女、桃果との生活リズムが合わなくなり、嫉妬や不安、言葉にならない焦燥感を覚えるようになる。自分自身でも何を思っているのか、どうしたいのかが分からなくなり、疲弊してしまった成輝は決断を下す。(Episode 1 成輝)

智世は、付き合って2年、同棲を始めて1年半の恋人、晃大がいる。毎朝恋人の寝顔を見て、会社に行き、同じ家に帰ってくる、変わらない日々を過ごしている。30歳を目前に、結婚について考えるも、今のままでいいのか、晃大はどう考えているのかなど、悶々とする。(Episode 2 智世)

大学院で美術史を学ぶ真澄は、自分のことが好きだという優羽に美術館に誘われる。優羽からの思いに半信半疑になりながらも、真澄は次第に優羽に惹かれると同時に、優羽の掴みどころのなさや眩しさに、大学時代のサークルの先輩、冴の姿を重ねる。(Episode 3 真澄)

冴には大学時代にサークルで出会い、猛アプローチを受けた末に付き合った彼氏の伸がいた。破局後、偶然の再会を果たし、共通の知人を交えた食事に誘われるが、冴は元恋人に対して強い嫌悪感や恐怖心を覚える。(Episode 4 冴)

男女4組の抱く、複雑な恋心を描いた短編集。

おすすめポイント

伝わっていると思っていたけれど、伝わっていなかった、考えすぎて身動きが取れなくなったという経験は誰にでもあると思います。私自身、「思い」も「想い」も口にしないと伝わらないし、口に出しても実は伝わっていなかったのだと、後になって気が付くことがあります。対人関係を構築するうえで、自分と対話する際の視界の狭さや、思い込みをしてしまうときの感覚、もどかしい言語化できない感情がリアルに描かれています。人と接することの難しさや、感情処理の難しさを感じている人にお勧めしたい1冊です。作品にかける宮田さんの思いや、裏話はYouTubeにも語られています。

宮田愛萌You Tube『あやふやで、不確かな』(前編)

この本が好きだった人にお勧めの本

  • 凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社) 何も考えずに愛し合えた高校生の頃から、成長、自立を通して変わっていく関係性をリアルに描いた小説です。2023年本屋大賞を受賞しました。
  • エーリッヒ・フロム著 鈴木晶訳『愛するということ』(紀伊国屋書店) 「愛」や「好き」が分からなくなっている方にお勧めです。恋人、家族をはじめとする、様々な関係性の愛について書かれた世界的ベストセラーに、その答えがあるかもしれません。

吉屋信子『返らぬ日』河出書房

あらすじ

女学校で出会い、情熱的な恋をする彌生とかつみの青くて純粋な、尊い時間を描いた表題作や、恋情に近い同性への憧れを描いた作品など、幻想的な世界観の少女小説を収録した短編集。

おすすめポイント

現代の言葉で、ざっくりとカテゴライズするのであれば、「百合」と呼ばれるジャンルです。明治期の作品であり、現代より同性間で幸せに愛し合うことが難しかったからこそ、儚さや美しさを感じられます。作中やタイトルに花の名前が多かったり、きらびやかでありつつも、どこか儚く、切ない印象の作品です。私は、収録作品の中で特に『七彩物語』が印象に残っています。女学校で出会った美しい女生徒の写真を友人にエピソードとともに見せる話なのですが、女性とのことを語る際に、実名ではなく、様々な色で例えているところが素敵でした。美しく、幻想的な世界観に浸りたい方や、明治・大正時代の女学校ものが好きな方にお勧めです。

この本が好きだった人にお勧めの本

  • 辻村深月『盲目的な恋と友情』(新潮社) 恋に盲目な女の子と、友達に盲目な女の子のお話です。物語終盤にかけて、衝撃の展開が待ち受けています!
  • 太宰治『女生徒』(KADOKAWA) 思春期の女の子の目が覚めてから眠るまで、何かが起こるわけでもない一日をリアルに描いた作品。あの思春期の独特な感覚を描いてしまう、男性の太宰に脱帽です!

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